米と味噌を持ち無人島に5日間。
そんなキャンプを今年の夏にやりました。
小学４年生から中学生の子ども達１３人と大人９人。

無人島ですから
何もしないと食糧はありません。
自分で作らないと食事も出てきません。というか、水さえもありません。
自分達が生きるために必要なことだから、
遊ぶ間なんてありません。
そりゃあもう必死。

魚を銛で捕まえ、
釣り、貝や魚を獲り、
最初は少ししか食べられなかった食事も
収穫も増えていきました。

日数を重ねるうちに
ほとんどの子ども達が魚や貝を獲れるようになり、
多く獲ることの出来る子はヒーローのような存在になりました。


でも、その陰に
がんばっても、がんばっても
最後まで魚や貝が全く取れなかった子が一人いました。

彼は３日目には完全に諦めてしまい、
他の子が海に潜っている間も
浜辺に座って
みんなの獲っている様を一人眺めていました。

私も、他の大人も
彼の隣に座り、何度も「がんばろう」って促してみましたが
決して最終日まで海に入ることはありませんでした。




最終日、その日は無人島出発の日
なんとか毎日食糧を得ることが出来、生きつづけた子ども達は
テントや自分の荷物の片付けに入ります。

炊事用具の片付けもしなくてはいけません。
包丁やまな板は簡単に汚れも落ちますが
直火のススが真っ黒にこびりついた鍋だけはなかなかきれいになりません。

合成洗剤を使わず汚れを落とさないといけません。
砂浜で、砂を手で握り、それで鍋にこすりながら
少しずつ、本当に少しずつ落としていきます。
借り物の鍋ですから
汚れがついていては返せません。
大人がチェックしてＯＫが出るまで、
何度でもやり直しです。


子ども達、みんな最初はがんばっていました。
でも、なかなかきれいにならない鍋相手に
一人飽き、二人目が遊びだし、しまいにはほとんどの子が諦めてしまいました。

魚獲りでヒーローだった子も、
料理が大好きだった子も
まっ黒い鍋を横に、浜辺で休んでいます。




ただ一人、
何度も「やり直し」と言われても
ずっと磨き続ける子がいました。

そう、先ほど話した、魚獲りを諦めていた子です。
服も手も顔もドロドロになりながら一人で磨きつづけています。




「すごいな、よくがんばってるな」
思わずその子に声をかけてしまいました。

その子は一言
こう返してきました。




「これやったら僕にも出来るからな」




この時の私の気持ちを、
このへたくそな文章で伝えることは出来ないかもしれませんが、
多分、私はなんとなく

「魚獲りを出来ない子」を
「何も出来ない子」と

決め付けていたように思います。

人には、向き不向き、得手不得手があります。
頭でわかっていても、
目立つところは得意、不得意も目立ちますね。
当然、目立たないところは得意、不得意も目立たないですよね。

また子どもに教えてもらいました。





鍋磨きの結末はというと
あきらめていた周囲の子ども達が
一人ずつ、戻って来ました。

子ども達の視界の中に、
熱心に磨き続ける彼が映っていたのでしょう。

３時間かかった鍋磨きの時間でしたが
ピカピカの鍋より、
子どもも大人も
得たものは大きかったように思えます。